1.日本語らしく読む
文字情報を音声情報に置きかえるとき、どんなふうに読んだらいいか? 「日本語らしく読めばいい!」というやり取りがよく聞かれます。でも、その「日本語らしく」がくせ者です。どうやったら日本語らしくなるのでしょう。日本語には、大阪弁もあれば鹿児島弁も名古屋弁もあります。最近の研究で音声を含めた研究がされ、日本語音声の特徴が少しずつ明らかになってきました。
私たちの音声は、呼吸器官を使っているため少しずつ「ピッチ」が下がっていきます。そして、文末では一番低いピッチの声となります。男性で100ヘルツ(Hz)を少し下がったあたり。女性はその倍の200ヘルツから150ヘルツあたりの周波数です。
ピッチって何だ、と思った人も多いことでしょう。日常、ピッチといえば「速度」に関係する言葉として使っています。自転車に乗っていて「ピッチを上げて」と言われれば、ペダルを踏むのを速くします。そして速度を増します。ボートのオールを漕いでいるときには、漕ぐのを速くして、ボートの進みかたが速くなります。私たちは交互に繰り返している動きに対して、「ピッチ」という言葉を使っています。交互に変わる……これを波にも使います。上がったり……下がったり……。音波も疎・密の繰り返しです。音声で「ピッチが高い」といえば、「周波数が高い」ということを表します。単位はヘルツ(Hz)です。
もう一つ、聞き慣れない言葉を使います。「フレーズ」です。国語辞典などで調べると、「慣用句、節」などと出てきます。でも、ここでいうフレーズは、音楽で使われる意味の「フレーズ」です。文字体系ではなく音声体系のフレーズです。国語辞典は文字体系の解説書ですから、その説明を読んで誤解しないでください。
さて、本題に戻ります。
私たちの読みは、高いピッチから読み始め、最後は低いピッチで終わっています。(ちょっと言ってみてください。)
ヒクイピッチデ オワッテイマス サンプル
どうでしたか? このように読めばいいのです。でも、長い文章のときはどうするか? そんなときは、幾つかのフレーズに身体の事情でわかれてしまいます。例えば、
タカイピッチデヨミハジメ サイゴワ ヒクイピッチデオワリマス サンプル2
「高い」「最後は」「低い」の個所で高いピッチが使われ、「わります」の文末ではかなり低いピッチになったと思います。
2.今では東京方言が「標準語」
声を出して読んだり話したりするときは、必ず「方言」が問題とされます。代表的なのが関西の方言と東京方言です。この二つはともに共通語の資格をもっています。日本全国どの地方の人が聞いても理解できるからです。でも、聞いてわかっても「そのように話す」となると、関西方言は無理という人が多いことでしょう。今では、東京方言をもとにした標準語が浸透してしまいましたから、これで読むのが妥当でしょう。
標準語となった東京方言には、どんな特徴があるのでしょう。私たちは今までアクセントの違いばかりに目を奪われてきましたが、別の側面から見てみましょう。音声研究で知られている杉藤美代子さんの著書で大阪方言と東京方言を扱った記述に、次のような個所があります。
両者には、イントネーションとアクセントの機能の仕方がややことなり、東京ではイントネーションが優位、大阪では、アクセントが優位となる傾向があることを示している。(「アクセント・イントネーション・リズムとポーズ」三省堂 1997年 13p.)
ちょっと難しくなりましたが、東京方言ではピッチがどんどん下がっていく話し方で、アクセントがそのピッチの位置に従って付けられる言い方。大阪方言では、言葉の持つアクセントをハッキリさせる話方のために、ピッチがどんどん下降するような話し方にならない傾向があるのです。その極端な例として鹿児島方言も合わせて載せられています。(同書12p.)