音訳入門

はじめに

 この『音訳入門』はひなぎくがボランティアグループだったころに発表した小論です。パソコンの仕様やDAISY関連のソフト、インターネット環境も、ここしばらくで随分と変わってしまいました。
 当時は「視覚障害者に貸出しではなく、手元に置ける本を提供しよう!」がスローガンでしたが、今や「学習障害やディスレクシア、お年寄りにもマルチメディアタイプのDAISY図書を届けよう!」と大変な様変わりです。
 不都合なところは手直ししたつもりですが、1999年当時に書かれたものの加筆訂正であることをご了承ください。

2002.9.

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第1章 音訳って知ってる?

1.音訳とは?

 「音訳」という言葉は古い言葉です。国語辞典などで調べると「サンスクリットを日本語の音にすること」という解説がでてきます。何と!「お経を読むこと」という意味があります。でも、ここで言う「音訳」は「音声訳」という言葉の省略形で、「視覚障害などの人のために、文字を音声に訳する」ことなのです。少し理屈っぽい解説をしますと、「視覚障害など情報障害の人のために、文字体系の習慣を、求めに応じて配慮しながら、音声体系の習慣に置き換えること」です。

2.電話番号ではどのように

 皆さんが、誰かの電話番号をメモに書き取るとき、どんな書き方をしますか。たぶん、下のような書き方をすると思います。

052−220−3292
052.220.3292
052(220)3292

 ほかにも、まだ書き方があるかも知れませんが、私たちが電話番号を書き取るときの習慣です。誰もがこの数字のつながりを見れば、「アッ、電話番号ダ」と気がつきます。電話番号を書くときの私たちの誰もがわかる習慣です。


 次に、この電話番号を誰かに音声で伝達しようとしたとします。どんな言い方、どんな読み方をするでしょうか? 相手に電話番号が伝わればよいとします。


「ゼロゴーニの」「ニーニーゼロの」
「セロゴーニ」「ニーニーゼロ サンニー……」
「レイゴーニ」「ニーニーレイ サンニー……」
「レイゴーニ」「ニーニーマル……」


 いろいろな読み方があると思います。そのどれもが電話番号伝達の目的、「文字を音声に変えて、番号伝達の目的」を果たしています。では、次のケースだったらどうでしょう。


3.求めに応じて配慮を

 ある視覚障害者から、「いま、盲人用ワープロの練習をしています。練習テキストを録音してくれませんか?」と求められたら、あなたはどんな工夫をしますか?


 「ビジネス文の書き方」のところに、電話番号がでてきます。「求めに応じて」ですから、ワープロのキー入力に合わせた読み方が妥当ですね。そうしますと、電話番号の例でいいますと……。

「ゼロゴーニ ハイフン……」
「ゼロゴーニ マイナス……」

 文字キーで数字を打ち込む人向きには「ハイフン」、テン・キーを使う人向きには「マイナス」が妥当ですね。これが、音訳の定義でいっているところの「求めに応じて配慮」なのです。使う人を理解することによって、誰でもできることなのです。


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第2章 プリントハンディキャップを理解しよう

1.視覚障害は真っ暗だけじゃない

 私たちは「見えない」というと、真っ暗な闇を想像します。でも、真っ暗な人だけではなく、形はハッキリしないけど明るい暗いはわかるとか、視野が狭いだけなど、「見える」視覚障害者も多いものです。最近の調査では次の数字(厚生労働省白書)があげられています。

2.こんな見え方の人もある

 調査であがっているように、事故による失明もありますが、多くは循環器系の疾病で、網膜剥離を起こして失明をしている人が多いようです。


 私たちの眼は、全部くっきりと外界の像を結んでいるのではなく、ごく一部だけが鮮明に像を結び、眼球がいろいろ動いて鮮明な像をとらえ、いわば頭の中で鮮明な部分を再構成して、外界の情報をとらえています。この鮮明な像を結ぶ部分は、血管が通ってなく、新陳代謝の弱い部分です。このため、長時間にわたって眼を酷使しますと、網膜剥離を起こしやすいのです。糖尿病など循環器の疾病で失明する率が高いのもうなずけることです。

はっきりと像を結ぶ部分が見えない 明るいと見えにくい

 この鮮明に像を結ぶ部分だけが見えない人、角膜が白濁して明るいと見にくい人、昼間は何とか形がつかめるけど暗くなると見にくくなる人、よく見えるけど視野が極端に狭い人など、さまざまです。

 ですから、「見えない」ことを理解するのですが、一人一人を理解するために、言葉を一歩進めて「この人はこのように見える」としてはどうでしょうか? この方が、一人一人を理解しやすくなります。また、弱視者を理解しやすくなります。

3.弱視者にも理解を

 「ある程度見える」弱視者は、白い杖を持って歩いているわけでもなく、見える人たちの中に溶け込んでいて、その存在がわからないものです。特定の施設がその人たちの実態を把握しているわけではありません。でも不自由していることに変わりはありません。私たちは地下鉄や私鉄の切符を買うとき、「○○○まではいくら……」と上の方の運賃表を見上げます。ところが多くの弱視者は、この運賃表の数字が読めません。小さな段差でも「ハッ」とすることがあります。明るいところから地下鉄構内の蛍光灯の明かりへ入っていくと、階段の段がよく見えません。黄色のブロックが敷いてあるところはいいのですが、美観を狙って、周りの色になじんだ色のブロックが敷いてあると、そのブロックがよく見えません。


 人によって個人差はありますが、「行動の不自由」を持つ人は少ないのですが、「読書の不自由」はかなりあることでしょう。「大活字の出版」が始まったばかりの状況ですから、音声による情報提供は、この人たちにも有効な手段となり、テキストや写真が表示できるDAISYシステムはその「見える」程度に合せて利用が可能です。


4.文字が読みにくい人はおおぜいいる

 単に視覚障害者に留まらず、音声による情報はお年寄りにも有効な「読書手段」となります。細かい文字の新聞では読みづらい人、字を見ていると頭痛がしてしまう人、寝たきりになっていて本を開いての読書ができないひとなど、音声情報は読書手段として有効です。


 そのほか、学習障害(視覚からの情報を摂取できない大人から子どもたちまで。日本ではその実態がつかめていません。)の人たちや、脳性麻痺、病院入院患者など、本のページを繰れない人たちなどにも、音声情報とDAISYシステムは有効な手段となります。

5.不自由するのは何だろう

 毎日配達される新聞、その中に折り込まれているマーケットのチラシ、図書館で借りる図書、町内の回覧板、ダイレクトメール、ガスや電気の検針票、電話の請求書、コンビニでつり銭と一緒にもらうレシート、電車の中の吊り広告、旅行社のツアーガイドなど、ふだん何気なく私たちの生活をとりまいている文字による情報。これらどれをとっても、視覚障害や通常の方法では読みにくい人にとっては「紙」同然のものばかりです。


 私たちは、「見えなくなれば、さぞ不自由だろう」と,点字の図書や録音図書を作り、それを提供することで頑張ってきました。でも、提供できていなかったのは、日々個人をとりまく生活情報や地域情報だったのです。点字図書館でもボランティアグループでも、一人一人の生活情報まで提供できていませんでした。

6.必要な生活・地域情報

 生活・地域情報は、一人一人の好みや興味が違うように、ある人にはつまらなく思えても、ある人にはとっても大切な情報であったりします。保健所の検診予定、粗大ゴミの出し方、税務署の申告期限から、スーパー日替わりの安売り、映画館の上映日程、ロックバンドのチケット発売情報など、さまざまな人の生活に合わせて、幅広い情報が必要とされます。また、これらの情報は、その日のうちにその人に届かなければ意味をなさないこともしばしばです。

7.仕事も勉強も

 生活・地域情報だけでなく、仕事や学業についての情報も必要とされています。これらは専門の分野に踏み込むことが多く、文字から音声への変換には苦労を伴います。そして、必要とする人にとって、「いついつまでに読んでおきたい」という注文がつくことが多く、音訳する人は期限を考えねばなりません。

8.誰だって娯楽も必要

 生活にゆとりができ、仕事・学業が順調であれば、誰だって楽しむことを求めます。最近の話題の本。ミステリもいい。昔からの名作をじっくり楽しみたい。カラオケもやってみたい……。古くから言われていますが、「衣食住」が足りれば、楽しむゆとりを私たちは必要とします。

9.視覚障害は情報障害

 私たちは「見えない」ということから、「読書の不自由」や「歩行の不自由」を考え、点字図書館や歩行訓練施設を考えました。このどちらもが「情報障害」という言葉でくくることができます。聴覚障害者がコミュニケーション障害といわれるように、視覚障害は情報障害といえるでしょう。


 この情報障害によるハンディ克服のため、その必要な期限内に、その人の必要度に合わせて、幅広く情報提供できる体制を作っていかなければなりません。

10.アクセシブル情報システムで使いやすく

 点字による情報だけでは、活用できる人が限られてしまいます。点字を読めない多くの人たちにはアクセシブル情報システムが適しています。今まで使われてきたカセットテープは、必要なところを探し出して、必要なところだけを聞くことが難しい道具です。雑誌などの拾い読みには大変不便です。


 この不便さを解消する新しい道具がデイジーです。DAISY(Digital Accessible Information System)は初めスウェーデンで開発され、その後国際標準となったシステム仕様で、その実用化は日本が世界をリードしているシステムです。このごろではSpec(仕様)をさすようになりました。誰もが使えるパソコンを使用して録音・編集をして、専用プレーヤーやパソコンで再生します。しおり機能やページジャンプ、大見出しから中見出し小見出しと渡り歩いての検索も可能で、プレーヤーでは、昨日聞いた個所からの再度の再生も可能です。CD1枚で50〜60時間程度を収録できますからどんな本でも1枚に入ります。


 音声だけではなく、文字や絵・写真も一緒に入れることができ、音声と文字はカラオケの歌詞みたいにシンクロさせることもできます。


 パソコンを使ったデジタル化は、単にCDで聞けるということにとどまらず、いろいろなデータに編集・加工が可能となりました。急速に伸びているインターネット。インターネットを活用したサービスも始まろうとしています。先のデイジーはインターネットの標準技術が使われているのです。

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第3章 どんなふうに読むか?

1.日本語らしく読む

 文字情報を音声情報に置きかえるとき、どんなふうに読んだらいいか? 「日本語らしく読めばいい!」というやり取りがよく聞かれます。でも、その「日本語らしく」がくせ者です。どうやったら日本語らしくなるのでしょう。日本語には、大阪弁もあれば鹿児島弁も名古屋弁もあります。最近の研究で音声を含めた研究がされ、日本語音声の特徴が少しずつ明らかになってきました。


 私たちの音声は、呼吸器官を使っているため少しずつ「ピッチ」が下がっていきます。そして、文末では一番低いピッチの声となります。男性で100ヘルツ(Hz)を少し下がったあたり。女性はその倍の200ヘルツから150ヘルツあたりの周波数です。


 ピッチって何だ、と思った人も多いことでしょう。日常、ピッチといえば「速度」に関係する言葉として使っています。自転車に乗っていて「ピッチを上げて」と言われれば、ペダルを踏むのを速くします。そして速度を増します。ボートのオールを漕いでいるときには、漕ぐのを速くして、ボートの進みかたが速くなります。私たちは交互に繰り返している動きに対して、「ピッチ」という言葉を使っています。交互に変わる……これを波にも使います。上がったり……下がったり……。音波も疎・密の繰り返しです。音声で「ピッチが高い」といえば、「周波数が高い」ということを表します。単位はヘルツ(Hz)です。


 もう一つ、聞き慣れない言葉を使います。「フレーズ」です。国語辞典などで調べると、「慣用句、節」などと出てきます。でも、ここでいうフレーズは、音楽で使われる意味の「フレーズ」です。文字体系ではなく音声体系のフレーズです。国語辞典は文字体系の解説書ですから、その説明を読んで誤解しないでください。


 さて、本題に戻ります。
 私たちの読みは、高いピッチから読み始め、最後は低いピッチで終わっています。(ちょっと言ってみてください。)

ヒクイピッチデ オワッテイマス  サンプル

 どうでしたか? このように読めばいいのです。でも、長い文章のときはどうするか? そんなときは、幾つかのフレーズに身体の事情でわかれてしまいます。例えば、

タカイピッチデヨミハジメ サイゴワ ヒクイピッチデオワリマス  サンプル2

「高い」「最後は」「低い」の個所で高いピッチが使われ、「わります」の文末ではかなり低いピッチになったと思います。

2.今では東京方言が「標準語」

 声を出して読んだり話したりするときは、必ず「方言」が問題とされます。代表的なのが関西の方言と東京方言です。この二つはともに共通語の資格をもっています。日本全国どの地方の人が聞いても理解できるからです。でも、聞いてわかっても「そのように話す」となると、関西方言は無理という人が多いことでしょう。今では、東京方言をもとにした標準語が浸透してしまいましたから、これで読むのが妥当でしょう。


 標準語となった東京方言には、どんな特徴があるのでしょう。私たちは今までアクセントの違いばかりに目を奪われてきましたが、別の側面から見てみましょう。音声研究で知られている杉藤美代子さんの著書で大阪方言と東京方言を扱った記述に、次のような個所があります。


両者には、イントネーションとアクセントの機能の仕方がややことなり、東京ではイントネーションが優位、大阪では、アクセントが優位となる傾向があることを示している。(「アクセント・イントネーション・リズムとポーズ」三省堂 1997年 13p.)


 ちょっと難しくなりましたが、東京方言ではピッチがどんどん下がっていく話し方で、アクセントがそのピッチの位置に従って付けられる言い方。大阪方言では、言葉の持つアクセントをハッキリさせる話方のために、ピッチがどんどん下降するような話し方にならない傾向があるのです。その極端な例として鹿児島方言も合わせて載せられています。(同書12p.)

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第4章 こんな練習をしよう!

1.まず耳を訓練しよう

 「ピッチがだんだん下がっている」と説明してみましたが、「エッ」と思った人が多かったのではないでしょうか。私たちはこの「ピッチの下がり」に気がついていなかったのです。聞き方を変えて、何度も聞いてみると、今まで気づかなかったことが「聞こえる」のです。私たちの耳は、あまり鍛えられていません。漢字をどう読むか、どう書くかの教育は受けたのですが、音声を聞き取る練習はしていません。しかし、聞き取りの体験を積み重ねれば、その「音」が聞けるようになります。それには、次のような条件があります。

  5分間聞く  どんなものでも我慢できる
  20〜30秒  感覚的な印象になる
  2〜3秒  フレーズの聞き取りやピッチの比較が可能になる


 私たちの聴覚は、たくさんの音の洪水からある音だけを選び出す機能を持っています。フィルターの役割をして不要な音を聞かないようにしていますから、「我慢できない特徴」のある読みを聞いていても、5分間ほど我慢すれば、聞いていられるようになります。20〜30秒ほど聞いてしまうと、細かな特徴を覚えきれず印象だけが残ります。その印象を、「どうして」と追及するには、そのあたりを含めて2秒ほど聞いてみるといいのです。細かな聞き方ができるようになります。


2.フレーズを聞き取る

 まず、NHKのベテランアナウンサーが担当するラジオのニュースを聞いてみましょう。前もって録音をしてください。テレビでは別の要素が入りますから、ラジオにしてください。

今日の主なニュースです。小渕総理大臣は、今日、NHKの取材に対し次のようなコメント…… サンプル3

 フレーズの先頭のピッチは高くなります。2秒聞いたら再生をストップ、そしてまた2秒聞くという要領で、ピッチの高くなるところを聞いてみます。1センテンスを幾つのフレーズで読んでいるか、よくわかるようになります。仲間と一緒に聞くのもよいでしょう。お互いに1センテンスが幾つのフレーズだったか確認しあいます。


 このような体験で、耳が鍛えられます。「ずーっと続けて読んでいる」と思っていたアナウンサーの読みが、実は幾つかのフレーズに分かれていたことがわかるようになります。

3.「アレッ! おかしい」の例

 自分の読みを録音してみると、話しているときと違って「変な声」に聞こえることが多いようです。自分の声が他人の声のようで、思わず赤面してしまうことも……。誰もがこういった体験を持っています。これは、外から反響して聞こえる自分の声と、内耳から直接に振動が伝わって聞こえてくる声のうち、聴覚中枢が内耳からの声を選択してしまっているから起こる体験です。自分の声を聞くことに慣れてくると、外からの自分の声を聞くように切り替わります。これも「耳の学習」の一例です。


 さて、自分の思いを話すことと違って、声を出して原稿を読むのはずいぶん勝手が違います。変な読み方になってしまうことが多いことでしょう。そこで、NHKのアナウンサーの読みを聞いた体験を見習って、フレーズの先頭がどうなっているのか自分の読みを聞いてみます。「変だな」と感じた個所を2秒程度聞いてみましょう。フレーズの先頭のピッチはどれも高くそろっていますか? 変なときには、フレーズの先頭のピッチが不揃いなことが多いものです。

花の お江戸の 八百屋町

 「花の」の出だしのピッチを低くして、「お江戸の八百屋町」を1フレーズで読んでみてください。講談などの名調子っぽくなりますね。いつもの話しているときの状態と違ってしまいます。「あれ、変だ!」の多くの例は、フレーズ先頭のピッチが妙に低かったりして、不揃いのときに起こるようです。

4.自分の読みを録音して仲間と聞く

 耳を鍛える練習は、自分一人でやるよりも同じ仲間と一緒に練習した方が効果があがります。誰だって変な読み方をするもの。変な例が沢山あった方が耳の訓練になります。仲間同士でサンプルを出し合って練習をすすめましょう。(自意識過剰はだめですヨ。)練習は練習、実際に読むときには「練習を忘れて」読むことができれば最高!です。実際に読むときには、録音レベル、マイクの使い方、漢字の読み、アクセントなど、気遣わなければならないことが沢山あります(パソコンで録音するときも同様です)。例えば、フレーズの先頭のピッチが高くなるのは生理的な現象です。「高くしよう」と思わなくても高くなります。練習の効果は意識しなくても現れます。実際に録音するときは、ピッチに気をつけることやフレーズの状態を忘れて、無心に読むことにしましょう。

5.文末、フレーズの先頭、フレーズの終りのピッチ

 仲間と練習していると、次のような原則がハッキリしてきます。


・文章の始まりはピッチが高く、文末は一番低くなる
・フレーズの先頭のピッチは高い位置になる
・フレーズの先頭のピッチが変動すると、変な感じを与える
・フレーズの終りのピッチが同じような位置にあると、単調であったり、「○○調」が生まれたりする


 これらの原則は、話し手が落ち着いた気持ちのときの標準語会話の特徴と一致することでもあります。よく言われるように「話すように読む」とは、これらの特徴を指していたのです。文字でこのことを伝えるって、何とも大変ですネ。

6.文章の構造も考えてみよう

 読んでいてフレーズに分かれてしまうのは生理的現象から生まれてくるのですが、意味上、フレーズに分かれてはいけない個所があります。たいていは「読みトチリ」や「読みなおし」をしている個所の場合が多く、私たちは瞬時に判断して読みなおしています。私たちは、言葉の意味の掛かりぐあいを「統辞」とか「統語」と言っています。この統辞構造とフレーズには関係がありそうです。誰でもすぐに気がつくことなのですが、声を出して文章を読むときに失敗をしてしまいます。聞いていて意味がとりにくい読み方になってしまう……。次の文で考えてみましょう。


赤い 小さな 可愛い 花


しとしとと 長く 降り続く 雨


 どうも意味がわかりにくい読み方になってしまったとき、このような線引きをしてみると、フレーズの分かれ方で失敗していることがハッキリとわかります。これも練習に加えるといいでしょう。実際に録音するときには考えないことが大切です。意識するとぎこちない読み方が生まれてしまいます。「練習は練習、本番は本番」と考えましょう。


 もう一つ付け加えることがあります。それは句読点(くとうてん)です。「。」は句点といわれ文章の終りを示しています。「、」は読点と呼ばれています。ところが、これらの印は目で見たときの区切りを意味していて、声を出して原稿を読むときの区切りを意味していないということです。昔学校では、「句読点のように読むのですヨ」という指導がされてようですが、この際、忘れてください。これらの印ものは、黙読(もくどく)をするための意味上の区切りです。

7.関西の人は子音を強く

 声に出して原稿を読むこと……地方なまりの強い人は尻ごみをしがちです。特にアクセントを難問にしがちです。「アクセントはどうでもいい」とは言いませんが、なまりがあっても「目のかわり」の活動はできます。活動に取り組んで、余裕ができたらこの問題にも取り組んでみましょう。


 非常に重要なことなのに、忘れられているものがあります。調音(ちょうおん、構音ともいう)と呼ばれていることです。私たちの日本語は一つ一つの音節がハッキリしています。それをカナで書き表しています。この音節が最小単位のように思われがちですが、多くの音節は子音(しいん)と母音(ぼいん)で成り立っています。私たちは言葉というと、関西と関東という比較をよくします。違いをあげるのですが、際立った違いは先の子音と母音の違いです。東京方言をベースにした標準語では、子音中心の話し方をしていることです。関西の言葉は、母音中心の話し方になっています。長い間、日本の標準語でしたから、かなり広範囲の地域にこの影響があります。ぜひ、関西に近い地域で育った人は、子音を強調気味にそれぞれの音を出してください。参考までに、「子音分類表」をあげておきます。

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第5章 録音技術も磨こう!

1.録音で大切なこと

 録音で大切なことは、次の3点です。
・録音レベルを適切に(カセットは0dB、シグツナDAR2は-6dB、DAR3は-3dB)
・周囲のノイズを録音しない(マスキング効果を利用)
・ポップ・ブローなどノイズを入れない(角度を45度に)


 録音レベルを正確に調整してから録音をします。音声はレベルに大小がありますから、一番振幅の大きくなったところで録音レベルを合わせます。アナログ録音なら「−3dB」程度、パソコンの録音ならば「−6dB」を中心に合わせるとよいでしょう。とくにデジタル録音では「0dB」を超えると波形が記録されませんから、「バシッ!」というクリップになってしまいます。十分に調整をしましょう。


 車の音や虫の声など背景のノイズも困ったものです。家庭で録音するときは、マイクを近くにセットして「マスキング効果」を使った録音をするとよいでしょう。ただ、マイクが近いと声に「ふくらみ」が出てしまいます(低音が強くなる)。音質補正も考えましょう。


 マイクが近いと「ポップ、ブロー」がマイクから入ってしまいます。息が直接マイクのスクリーンに当たらないよう、横45度の角度から口と鼻の中間をねらうといいでしょう。操作音、ページを繰る音などにも注意をしてください。

2.シグツナDARを使う

 デイジーの仕様2.0によって作られた録音・編集ソフトに「シグツナDAR3」と言われるものがあります。このソフトは、日本障害者リハビリテーション協会が開発したソフトで、非営利団体に提供される無料のソフトです。申請をすれば使用ライセンスが交付されます。詳しくは以下のURLにアクセスしてください。


http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/
http://www.daisy.gr.jp

3.パソコンのスペック(仕様)

 シグツナDAR(Digital Audio Recorder)を使うためのパソコンはどんなものがいいか、ご紹介します。


 ウインドウズが使われるようになってパソコンの性能が随分あがりました。とくに最近は低価格化・高性能化が顕著です。二、三ヶ月するとパソコン市場が変わってしまいますので表を掲載しにくいのですが、目安にしてください。


・パソコンはDOS/V機(IBM互換機)
・CPU(中央演算装置)   ペンティアムV 1GHz以上
・DRAM(メモリ)   256MB以上
・HDD(ハードディスク) 20GB以上(20GB推奨)
・OS   WinNT4.0、2000professional

 そしてサウンドカードの良いものを選んでください。パソコンに詳しい人に相談してみてください。

4.DAISYの特徴

 この仕様の録音ソフトの特徴は、音声を自動的にフレーズに分けて記録することにあります。普通の録音ソフトは一本の波形ファイルですが、シグツナDARでは見出し単位に波形ファイルが分かれ、さらに細かくフレーズの情報も記憶されます。そのため、原稿の文字列に対応させて、音声をワープロのように移動・コピー・カット&ペーストなどの編集をすることができます。およそ、ワープロでできる編集の働きが、音声についてできると考えていいでしょう。さらに、細かくフレーズを分割したり結合したりできるようにもなっています。


 次のシグツナDAR3では、マルチメディア化されています。録音された音声のフレーズ単位にテキストをシンクロさせることができます。この画面には絵・グラフ・写真などを貼り付けることができ、絵や写真を見ながら音声で説明を聞くことができます。これもインターネットの標準技術SMIL(Synchronized Multi-Media Integration Language)が使われているからです。今後もどんどん進化していくことでしょう。マイクロソフトもこの標準技術を使っています。詳しくは、それぞれの操作マニュアルをご覧ください。


5.デジタルにすると

 音楽用CDやMDはデジタル技術を使ったいわばアナログです。パソコン上で再度、別の形に編集することができません。(一旦、アナログ信号に変えて取込み直せば別ですが……)シグツナDARのデータのようにパソコンに取込んだデータは、利用に合わせていろいろなデータに加工することが可能です。先に、テキストとのシンクロのお話しをしました。インターネット上のファイルにすることもできます。これによって、どの家庭にもある電話からインターネットにアクセスすることも可能になります。


 マルチメディアデータをパソコンで再生する。パソコンのない人はゲーム機とテレビで、音声だけを聞く人は専用のCDプレーヤーで、プレーヤーを持たない人はプッシュホン電話で音声を検索して聞くことができます。この電話はインターネットを介して世界中の音声サイトにつなぐことができます。


 このように、デジタル化は今までできなかったことを可能にしてくれます。これらの技術を私たちのものとして、プリントハンディキャップの人たちにどう役立てるかが、いま問われています。


6.録音レベルに気をつけよう

 さて、話しは後戻りして、カセットの話しになります。デジタルにすると、音声情報を利用する人にとっては非常に便利になります。ですから、この動きは政府の補正予算の投入に始まり今後もっと加速することでしょう。


 そこでカセットです。カセットは録音の「おもちゃ」です。正直言ってあまり音質にすぐれていません。ですから、シグツナ編集をした人たちが困っているのです。カセットでは……


・テープヒスが目立ちすぎる
・ワウ(回転ムラ、右の図)がある
・傷がつきやすく音とびがある


などの点が、欠点としてあげられています。ですから、カセットテープで録音するときには、録音レベルに気をつけましょう。ピークレベルメーターの最大振幅は「0dB」になるようにしましょう。また、ワウ対策として、週に1度はピンチローラーのクリーニングをしましょう。方法は全国視覚障害者情報提供施設協会「活動するあなあたに 録音編」を参照してください。また、3年に1度は消耗部品(ピンチローラー、キャプスタンベルトなど)を交換してください。「動いていれば」「聞こえるから」では使える録音になりません。


7.モーター音

 カセットの家庭録音に多いのがモーター音。対策のやっかいな音です。テープヒスと同じようにシグツナの無音検出に重大な影響を与えます。この音は、カセットデッキとマイクスタンドを同じテーブルに置いたりしていると混入して録音されてしまいます。マイクの位置が「デッキの上に載せるとちょうどいい」といって、不充分なクッションの上にマイクスタンドを載せている人もいます。ほとんどのカセットデッキがモーターを2個以上持っていますから、デッキは振動の巣です。テーブルは別にして、くれぐれもマイクスタンドをデッキの上に置くようなことはしないでください。


8.バ  ズ

 バズの代表的な発生源が蛍光灯です。中に「小さな雷」を持っていると考えてください(パソコンもノイズの塊です)。蛍光灯のノイズのように電気的なノイズをバズと呼んでいます。このノイズも対策がやっかいで、デッキのメーカーに相談しても解決法が見つからないこともあります。高い周波数のバズは、多くがマイクのコイルによる誘発が原因のことが多く、知識のある人に相談するとよいでしょう。解決法の一つとして、「蛍光灯は使わない」「電源コードの極性を変える(プラブを左右入れかえる)、などの対策でいい結果が得られるかもしれません。


 低周波のバズは、マイクのコード(雑音が入りこまないようシールドをしてある構造)のシールド側が断線しかかっていたり、マイクジャックが汚れていて接続が不完全であったりすることが原因になります。コードを動かしてノイズが出るか試してみたり、ジャックの表面を乾いた布で磨いたりして、その原因を探る必要があります。


 環境や使っている機器によって対策がかわりますから、知識を持っている人(仲間のオーディオマニア、パソコンマニアなど)に相談をしてみてください。


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第6章 いろいろな活動がある〜視覚障害の場合

1.誘  導(手引き)

 視覚障害は、情報のハンディを生みますが行動の自由も奪います。自分がどこの空間のどの位置にいるか、自ら知る手だてを失ってしまいます。ですから、移動することに大変な不自由をします。そこで、公的にはガイドヘルパー制度が設けられています。けれども、出かける場所や回数、時間に制約があったりして、この制度が使えないこともあります。


 毎年、鉄道のホームから転落して大怪我をしたり、命を失う人が出ています。一人歩きをして楽しみたいというときもあるかもしれませんが、人が誘導するのが一番安全です。ひと声、「ごいっしょしましょうか?」と言葉をかけてあげてください。障害者団体、グループでハイキングやレクリエーションの企画を立てたりします。そんなとき一対一で誘導する人を求めています。ちょっとした配慮でできることですから、積極的に参加してください。誘導のコツは、その人より半歩前を普通のとおり歩くことです。杖をつかんだり、後ろから抱え込むような誘導はダメです。


 誘導法のマニュアルがありますから入手してください。研修の機会があるときはこれに参加しましょう。


「初めてのガイド」  〒101-0061 東京都千代田区三崎町1-1-9三崎ビル3F
 株式会社 大活字 03-5282-4361
e-mail:hello@daikatsuji.co.jp

2.サークル活動援助

 料理やウォーキング、パソコン、音楽バンドなどさまざまなサークルが作られています。多くのサークルが「目」を必要としています。音楽バンドでは、楽器移動の運転手や発表会のチラシ作りなど人材を求めています。自分の趣味が同じであれば、そういうサークルに参加して手伝ってください。施設・団体によっては多くのボランティアの力を結集して組織だった援助をしているところもあります。


 この活動で共通していることは、「主役は視覚障害者」です。料理の手伝いの人が手早く手伝ってしまっては、何のための教室に参加したのかわかりません。「見えないこと」は気の毒な何もできないことではありません。この種のお手伝いは「目の代わり」をするだけにとどめましょう。「親切心」が不幸な結果を招くこともあります。どこまでが「目の代わり」なのか、その場その場で考えねばなりません。先輩がいたら、その体験を聞くことがいい勉強になります。

3.レコーダーのメンテナンス

 多くの人がまだカセットテープに頼っています。カセットテープ一本は約140メートルほどの長さになります。レコーダーはこの長いヒモをヘッドに当てて録音・再生しています。ちょっとしたほこりが1メートルおきに付いていても大変な数になります。これを一日に何巻も回すのですから、汚れも相当なものになります。


 そのために定期的にレコーダーのクリーニングをしなければなりません。しかし、視覚障害の人には困難が伴います。器用な人は自分でクリーニングします。でも、私たちにも器用・不器用があるようにいろんな人がいます。視覚障害にはお年寄りも多くいます。目の代わりでクリーニングを担当する人も必要です。こんなチーム作りの呼びかけを知ったら、どうぞ参加してください。


4.デジタル関連の活動

 録音の方法やユーザーに提供する情報の形、方法に変化があるこの時期、さまざまな分野・形で活動が行われるようになることでしょう。


アナログのカセットテープの時代では、イレースやプリント、モニターといった縁の下の力持ち的活動もありました。音訳するだけではなく校正、編集の活動もありました。これは一途にカセットによる録音図書・テープ雑誌の提供を前提にしていました。それがいま、大幅に変わろうとしています。図書の内容は娯楽中心から仕事・学業の領域に移ることでしょう。アナログのテープよりも必要なところが比較的探しやすい点字図書を求めていたユーザーが、デジタルの録音図書を求める可能性があるからです。当然ながら、「本を作る」という感覚から「求めに応じる」ような個別ニーズに即した製作システムが必要とされるようになってくることでしょう。


 テープ雑誌も様変わりすることでしょう。雑誌は今まで「抜粋」と決まっていました。必要なところはユーザーが選んで聞き、再構成され、一部分だけを収録した雑誌は要らないという声も起こってくることでしょう。むしろ、もっと新鮮な情報を求める声が出てくることが予想されます。週変わり、日変わりの情報を、私たちはどのように提供するのか? 考えねばなりません。私たちはインターネットや新聞、雑誌、チラシ、DMで日変わり週変わりの情報を受け取っています。音訳が大変だから我慢してください、では活動の意味が半減してしまいます。


 デジタルはこのような変化を引き起こし、そのための提供手段を良い意味で著しく変える可能性を秘めています。


 カセットテープの品質が極端に落ちています。なくならないまでも、使えないところまで落ちてきたようです。コスト高のテープを使っていていいものか? 以下、未完部分です・・・・・・・・一緒に皆で考えましょう!!


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